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福島家庭裁判所いわき支部 昭和43年(少ハ)2号 決定

本人 M・G(昭二三・一・二五生)

主文

本人に対し、昭和四三年九月二八日までに限り、特別少年院収容を継続することを認める。

但し、本人に対し同年七月二八日までに仮退院を許した場合は、同年一二月二八日に至るまで仮退院中の者として保護観察を継続し、かつ、犯罪者予防更生法四三条に定める申請をすることを妨げない。

理由

(現在に至るまでの経過及び事実関係)

本人は、当裁判所昭和四二年少第一四九号事件につき同年三月二八日特別少年院に送致する旨の決定を受け右決定に基き同月三一日盛岡少年院に入院し、二〇歳に達した後は少年院法一一条一項但書により、さらに昭和四三年三月一五日以降本件申請により、同院に収容を継続されて現在に至つたものである。

本人は、在院中、(1)昭和四二年七月三一日夕刻同院食堂において日頃反目していた院生のAに対し些細なことから口論の末平手でその顔面を殴打し、(2)昭和四三年一月二日午前九時頃同院岩手寮一六号室において同室の院生Bに対し些細なことから殴り合い、さらに、同日午後同人から反則が重なれば退院できないなどと挑発されて憤怒の余り同寮内において同人に机を投げつけてその顔面に全治約一週間の傷害を与え、右各反則につきそれぞれ昭和四二年八月九日、昭和四三年一月九日いずれも謹慎二〇日の懲戒に処せられたものである。

本件申請理由中、右反則は本人のやくざ的価値観の発現であり、そのインフォーマルな地位を有利にすることを意図するものであつたとの点は、右反則がいずれも受動的であつたとする本人の弁疏を排斥するに足る資料がないので採用しない。

前記送致決定書等によれば、本人が自己顕示性が強く、些細なことに興奮して反抗的態度になりやすい性向を有したことが窮え、右反則はこのような性向に根ざすものとみて差支えない。

盛岡少年院においては、他の少年院の例により、二級下から一級上に至る等級を設け、その処遇を区分し、かつ、仮退院等の許可は最高等級に属する者に限られる例となつているところ、昭和四三年一月以降は点数制を採用し、院内の生活を数項目に分けてその成績を査定して一定の点を与え、一方、反則の場合は相当の減点をなし、その得点に応じて進級させることとしており、一つの進級には三ヵ月以上を要するのが通常である。

本人は、前掲反則の外、担任教官作成の「処遇経過の要約」等に徴すれば、昭和四二年八月頃を除き院内の行動態度にとりたてて問題はなくむしろ最近では成績の向上が認められる。

本人は、昭和四二年一二月一日稍遅れて一級下に進級したものの、前掲(2)の反則により次の進級までにはなお相当の期間を要するものと推認される。

本人は、入院当初の考査期間を経て昭和四二年七月一日から農耕科に所属し現在に至つているが、その希望により昭和四三年四月一日受験のうえ、自動車科に編入されることに決定し、爾後院内において自動車運転の訓練を受けることになつている。

本人は、現在、少年院に引続き当分の間継続収容されることを受容する心情となり、かつ、上記のとおり運転資格を得て自己の将来に役立てたいと志すに至つている。

本人と家族との間には顕著な葛藤等はなく、父母はかねてから本人に対する積極的な受入意思を示し、本件審判時にも早期出院を強く望んでいる。けれども父母も最近まで本人のため適職や適当な帰住地を選ぶ等具体的な受入環境を形成するに至らず、審判直前に及んで母の妹の夫D・R(仙台市在住)において本人を仙台市内に居住させ就職させる条件を整えるに至つた。

本人は、送致決定前、いわき市のやくざ○○会関係者とつながりを有していたが、現在本人はそのつながりを絶つことを決意し、そのためには住所地に戻るより他所に就職するのがより適切であると考えている。

本人の住所地を管轄する福島保護観察所の担当者において本人の帰住に特段の支障はない旨の意見を有している。

(以上の事実に基く判断)

盛岡少年院長は、昭和四三年三月一五日本件申請に及んだが、すでに同年一月九日の懲戒決定当時において、送致決定後一年間の経過により本人を退院させることが不適当であると思料したものと推認される。このような場合にまで、家庭裁判所の審理期間中少年院法一一条七項により収容継続がなされるのは妥当でなく、その意味において本件申請はその時期を失した譏を免れない。けれども、この点において本人の処遇上、顕著な問題を惹起したと認めるべき事情はないので、この点について本件申請の当否を論ずる必要を認めない。

およそ、少年院は集団教育の場であるから、少年院法六条に定めるように等級別処遇を実施すること、すなわち、院内の成績等に応じて在院者に等級を定め、かつ出院の当否、時期を決することは、いたずらに画一的に堕しない限り、相当な措置というべきであろう。

けれども、前に認定した点数制実施の実態に徴すれば、院生は通常の成績の場合でも一年程度在院してはじめて出院可能の状態となるわけで、本人のように、送致決定当時すでに二〇歳まで一年間に満たない者については、結局通例少年院法一一条一項但書の期間満了前に出院したうえ、一定期間仮退院中の者として保護観察を実施するためには、相当の期間が存しないことに帰着する。このように少年院法一一条一項但書該当者に対し、おしなべて収容継続の決定をするのが相当でないことは、少年院法の趣旨に徴し明らかである。

しかし、本人にあつては、前記のような院内反則の累行があり、この点において、本人の粗暴な犯罪的傾向がまだ充分に矯正されていないものということができ、その故をもつて出院及び保護観察終了の時期を法定のそれより遅らせる必要があるというべきであるから、本件申請はその点において相当とみることができる。

もつとも、本人の右各反則は、いずれも、少年院法八条所定の最高の懲戒をもつて臨むべきものであつたか否かは疑わしいところであつて、右反則及びその背景である犯罪傾向だけでは収容継続の必要はともかく、かなり短期間のものに限られる。

けれども、本人は、現在院内において自動車運転を習得して将来に資する希望をもち、その点もあつて収容継続を受容する心情となつているので、その所要期間程度なお本人を在院させることは、申請理由中に主張される更に院内において一定期間上級生としての自覚の上に矯正教育を受けさせることの教育的意義と相俟つて、本人の性格矯正のために有意義と考えられる。

保護者らは、本人の早期出院を希望するが、その具体的受入条件が半ば急拵えのものであることが否めない以上、この希望を早急に達成することが、本人の保護育成上有効と認めない。

しかるに、本件送致決定書によれば、本人に対する送致決定の理由は、非行事実自体よりは性格、従前の生活態度等にその重点が存したものとみるべきである。このような場合、非行者が収容保護の決定を是認し受容することは、一般に困難な場合が多いのであつて、このような非行者の心情を理解し、その上に立つて矯正教育を実施することは重要である。この点において、本人に対し在院すべき期間をできる限り明示し、希望をもつて矯正教育を受容させるために充分な考慮が必要である。

出院後の予後指導、環境調整については、本人の過去、年齢、その他前認定の事情を考慮し、帰住定着までの指導援護を必要とする期間を定めるのが相当である。

以上のとおりであるから、本人は犯罪的傾向がまだ矯正されていないため少年院から退院させるに不適当な状況にあるとする本件申請は結局理由がある。よつて少年院法一一条四項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 高山晨)

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